その7

「目標確認。ターゲットは現在庭で紅茶なんぞを馬鹿みたいに啜っている模様。あの優雅な仕草がいちいち腹に立ちます、どーぞー」
 いったい一晩でどうやったらこんな屋敷が建つのでしょうか。若の家は昨晩とは比べ物にならないほど広大な土地に、巨大な屋敷を建てていました。父・宗治の屋敷よりも大きく見えます。
 そんな広大な敷地のすぐ外で、マリエルはマイクに向かって恐ろしく個人的な感情、もとい情報を送りました。
「そうか、それではまずお前は可及的速やかかつ一心不乱に直線的な動きで目標を捕縛、しかる後抹殺せよ。その際お前を含むどんな犠牲もいとわない。分かったかぁどーぞー」
 マイク越しにこれまた個人的な感情が多分に見え隠れする情報が送られてきます。マリエルは少し引っかかるものを感じながらも、ラジャー、と返しました。
「では一分後に行動を開始する。時計合わせろー」
 匠の指示にマリエルは一応腕を見ました。が、勿論時計なんて持っていません。なので体感で一分マリエルは数えました。
「アターック!」
 匠の声がヘッドセットから聞こえてくるのと同時に、マリエルは一直線に屋敷へと突入しました。計画がうまくいけば、マリエルが若を捕まえるまでには匠が土地と屋敷の権利書を盗み出しているはずです。
 マリエルは広大な屋敷が自分の物になるとよだれをたらす勢いで不気味に笑いながら、屋敷の門に向かって正面から馬鹿みたいに突進していきました。
 と。
 ぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ。
 何か笛のような音が辺りに響き、雇われたのでしょう、屈強な男達が門の中から一斉に飛び出してきました。その数七人。
「いやああああああああああああぁっ!!」
 男達の姿を見るなり、マリエルは突撃したスピードそのままで百八十度身体を回転させ、一目散にその場から逃げ出しました。
 なんせ男達は全員筋肉の塊のようなガタイで、上半身裸に短パン、サスペンダーという格好なのです。その男達が真一文字に同じスピードで追ってくるのですから、気がおかしくならないほうがどうかしています。
「ふんはっ!ふんはっ!」
 後ろから聞こえてくる男達の気合の鼻音に、マリエルの理性はメルト・ダウン寸前です。
「うああああああああっ!」
 もうしませんもうしません。
 頭を抱えて、マリエルは父・宗治の元へと泣きながら逃げていきました。

<<前目次次>>
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送