その6

「な……」
 優秀な地元の建設業者とこれからのプランを練りに近くの蕎麦屋に行っていた若は、自分の家になる予定だった柱がパルテノン神殿の極太の柱のようになっている事に愕然としました。今日の試験を蹴ってまで決意した夢のマイホームパパへの道をこれから一歩一歩踏み出す予定だったのですから、その落胆振りは計り知れません。
 とは言っても当初の一人暮らしの目的とかなり違っていた若でしたので、マリエルの嫌がらせは彼を物語の中へと呼び戻すいい薬になったのでした。
 若は水浸しになった設計図を拾い上げました。性悪の姉のせいだという事は容易に想像がつきました。
 彼は設計図を片手で思いっきり握りつぶすと天を仰いで決意しました。彼の家への情熱は今宿ったのです!!
 家を追い出されてから二日目の夕暮れがやってきました。匠が行く当てもなく歩いていると、偶然マリエルに出会いました。
「あ、兄さん……!」
「よーおマリエルぅー」
 匠の不敵な笑みにマリエルの本能が告げました。殺される、と。
 兄の次の言葉を待つ気など更々ありません。マリエルは脱兎の如くその場から逃げ出そうとしました。しかし、匠は素早くマリエルの肩を掴んで教習所の教官よろしく、その足に強制的にブレーキをかけさせました。
「なーに逃げてんだよ」
「あははーやだなあ兄さん。私が逃げるわけないじゃない」
 そうは言ってもマリエルの身体は匠の方を向こうとはしていませんでした。
 本格的にピンチのようです。
 しかし匠の口から漏れたのは、マリエルの調理法ではなく、別の事でした。
「あのさー」
 かくかくしかじか。
「若の家を乗っ取るー!?」
「おうよ」
 それはマリエルがまったく考えなかった事でした。今まで他の奴が建てたらぶっ壊す、しか考えていなかったので、その言葉は随分と澄んだ歌声のようにマリエルの耳に入っていきました。
 まさにカルチャーショック。初めてマリエルは匠の事を兄さんとして尊敬しました。
「で、乗るか?」
「んっふっふ。勿論よ、兄さん」
 二人の怪しい含み笑いが、いつまでも町に響いたのでした。

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