いよいよ本格的に三匹の子豚チックになってきたかもしれません。
匠は一本木を切り倒した後で満足そうに後ろを振り返りました。
なんとそこには時間の都合で出来上がり直前のログハウスが建っているではありませんか。あとは板を一枚取り付けるだけです。
感慨深げに最期の一枚を貼り付けると、匠は大きく息を吸い込んで鼻を膨らましました。
さあ木の家の完成です。
その瞬間、
「狂い咲く紅い薔薇ぁ(スプレッド・ローゼス)!!」
匠の目の前で、ログハウスが轟音と共に爆発炎上しました。匠の髪の毛が無常にたなびきます。
「ばーかばーか、死ねクソ兄貴!」
戻ってきたマリエルが魔法のような力を使って一瞬にしてログハウスを破壊したのでした。マリエルは捨て台詞を残すと匠の前から一目散に逃げていきました。
後に残ったのは黒く焼け焦げたログハウスの残骸だけです。
「マリー……この恨み、必ず晴らしてくれるからなぁーーーーーーっ!」
匠が拳をきつく握り締めて咆哮します。もはやどこまで醜い争いを繰り広げるのか、想像もつきません。
「あのー……」
その時、髪の毛が逆立つほどに怒り心頭な匠に恐る恐る声を掛けてきた者がいました。
「ああぁっ!?」
「ひっ!」
振り向いた形相に怯えて身を縮み上がらせたのは、十七、八の少女でした。オレンジのキャミソールに白いパーカー、ジーンズ素材巻きスカートと、いたって普通の格好をした少女です。しかし何故だか頭に犬の耳のようなものをつけています。
「なんだよお前」
匠が訝るのも無理はありません。こんな格好をした少女に知り合いはいないからです。ちなみに少女の胸には「代役」と書かれたバッチがついていました。
「あ、あのー……」
おずおずと少女が手を上げます。
「なにもんだ、おめえ?」
「えっと……その、春日凪、いや狼、です」
少女は泣きそうな顔でそう告げました。匠の凄みに、というよりは自分の格好に耐え切れないからのようです。
「はあ?」
「あの、絶対基準狼さんがもう嫌だ、って言いまして……で、その……私が代役に……ううっ」
どうやら無理矢理狼役を交代させられたようです。凪狼は屈辱に瞳を濡らしながら、怖くて何度も謝りました。
「ですから……その、規定通り木の家を壊させて下さい。終わらないと家に帰れないんです……」
完全に泣き声の凪狼に、匠は無言で指をログハウスだったものに向けました。それを追って凪狼もそちらへと視線を向けます。
「え……そんな! も、もう壊れているなんてっ! これじゃあ私の存在理由が……!」
「出直して来いっ!!」
悲劇のヒロインのように去っていく凪狼に向かって匠は思いっきり叫んだのでした。
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