その2

 さて、外に放り出された三人は、あてもなく途方に暮れていましたが、一番まともな次男・若は違いました。
「しょうがない、自分達で家を建てようじゃないか」
 そう言って立ち上がった若の目には、復讐に燃えるような色が宿っていました。何も悪くない自分を追い出した父親を見返してやる、と心で思っていたのです。
 そうと決まると行動が早い若は、一人町の中を去っていきました。
 匠とマリエルは楽観主義だったので、今日寝る場所についてすら考えず、高級レストランで有り金を使い果たしてしまいました。
「ちっくしょー……」
 夕暮れの紬町商店街を一人歩きながら、匠は財布の中身を執拗に数え続けました。ひーふーみー。何べん数えても三百円しかありません。夜になったら怖い狼が出るというのに、これではカプセルホテル、いや漫画喫茶にすら泊まる事が出来ません。
 しょうがないので匠は公園に行き、ダンボールにくるまって寝ることにしました。なんてみすぼらしい主人公なのでしょう。
 匠は不平不満を延々と一人呟いていましたが、月と外灯が暗闇をほのかに薄める時間にもなるとすっかり寝入っていました。
 しかし。
「公平にー、公平にー」
 なんと初日で狼に出くわしてしまいました。狼は燕尾服にシルクハットという喜劇にでも出てきそうな格好です。両目に楔が埋め込まれているのでかなりスプラッタですが。
「この町の夜は危ないよー? 入浴剤かと思ったら漂白剤だった勢いだ──って」
 狼の唯一の見せ所だというのに、匠はそれに気づかずにぐっすりと寝てました。それを見た狼の顔色がみるみる変わっていきます。どうやら機嫌を損ねたようです。
「君はさよならだ」
「うををっ!?」
 狼が怒って何個もの巨大な楔を中空に出現させ、匠に向かって一気に落としました。匠のダンボール製の家では到底防ぐ事は出来ません。匠は慌てて飛び起きると、
「どこのもんだっ!?」
 とこれまたチンピラな台詞を吐いて応戦しようとしましたが、気分を害した狼はもう舞台の袖へと引っ込んでしまっていました。
 こうして匠は世間の無常さと夜風の寒さを痛感したのでした。

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