番外編:三匹の子豚〜紬町MIX〜

その1

 昔々。
 いや、そんなに昔ではありませんでした。
 つい最近の事です。
 紬町というところに匠、マリエル、若という仲のよい三人の兄弟がいました。年下なのに匠が長男だという事には目をつぶってやってください。オトナの事情というものです。
 ともかく、今日も今日とて平和な一日が繰り広げられているようです。
「なあマリー、俺の鋏知らねーか?」
 金持ちそうな屋敷の中だというのにジーンズに甚平姿という酔狂な格好でうろついていた匠は通りかかったマリエルに聞きました。
 マリエルはマリエルで女子高生の制服姿・ただし全身真っ赤、といった風貌でこれまた酔狂以外の何でもありませんでした。美少女は何を着ても似合う、とでも思っているのでしょうか。
「あーあれ? 全っ然切れないから捨てといたわよー」
 匠の問いにマリエルは手をひらひらさせながら答えました。いかにも世間知らずな金持ちが答えそうな台詞でしたが、匠はそれを聞いて顔を真っ赤にして怒り始めました。
「てめー何てことしてくれてんだ! 俺のズガ・コウサクちゃんは紙とかを切るために持ってる訳じゃねーんだぞ!!」
 匠にはがらくたに名前を付けて可愛がる、という困った悪癖があるのでした。
「あ? あんながらくたばっか集めてんじゃないわよ、気持ち悪いわね!」
 二人が殺し合い──もとい、取っ組み合いの喧嘩を始めた時、そこに次男の若が現れました。
「二人ともうるさいぞ! 勉強に集中できないじゃないか!」
 本を小脇に抱えながら登場した若はオールバックにタキシードといったいでたちで、鋭い目つきと相まって頭の切れる若者に見えます。
「あ? 黙ってろテメーは!!」
「そうよ、邪魔しないでくれる!?」
 若のもっともな意見に、兄と姉は似たような台詞で一蹴したのでした。
 いつもならそれ以上は突っ込まずに「馬鹿が」と捨て台詞を残して去っていく若でしたが、今日は違いました。なんせ明日は大学の卒業試験なのです。
 いつも以上にエンドルフィンが回っていた若は、静かに懐から古めかしい折りたたみ式の小刀・肥後守を取り出すと、
「死ぬがいい貴様ら!」
 と言って投げつけました。とても肉親とは思えない台詞です。しかし匠もマリエルも瞬時に横に飛んで避けると、今度は仕返しとばかりに二人で飛び掛りました。
「死ねコラァ!」
 三下のような台詞で匠が錆びたペーパーナイフを一閃すると、床が凄い勢いでえぐれていきました。
 かろうじて避けた若に、今度は姉のマリエルが襲い掛かります。
 二対一。なんて卑怯な兄と姉なのでしょう。
「常緑樹のなみ──」
 マリエルが若の腕を掴んで魔法のような力を使おうとしたその時、
「馬鹿もんがぁぁぁぁぁあっ!」
 後ろからげんこつが飛んできました。ごんごん、と匠とマリエルに一発づつ。
 現れたのは父親・宗治でした。
「いてぇ!」
「った〜いっ!」
 半泣きで頭を押さえる長男と長女に、父親は叱りつけます。
「何故仲良くできん!? この馬鹿もんがぁ!」
 ……どうやら仲がいいというのは金持ちで世間に発言力のある宗治の高度な情報操作だったようです。がっかりです。
「だってぇ〜」
 マリエルが反論しようと宗治に食い下がりますが、宗治は頑として受け付けませんでした。そして、こんな事まで言ったのでした。
「貴様らの甘ったれた根性、叩き直してやるわ! 全員今日から一人で暮らせーい!」
 その台詞に三人は驚きました。なんせ外には怖い絶対基準隣人……ではなく、狼がいるからです。そんなところに放り出されたら、そう思うだけで三人はやるきがなくなります。
 三人はそれだけは、と懇願しましたが、宗治は決して許してはやりませんでした。
 若はかなりのとばっちりですが、世の中にはこういった運の悪い人もいるのだといういい教訓になりますね。
 ともあれ、三人はこうして勘当というか、食減らしに外の世界へ放り出されてしまいました。

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