29〜決意を裏切って

「おおおおおおおっ!!」
なんと見切ったのか、射出されたマリエルの身体を両腕で覆うようにして匠は踏ん張っていた。
放たれた創造力は衰えを見せずに、マリエルの周囲に幾重もの鋭い風の空間を作り上げている。吹き飛ばされれば衝撃だけで済むが、それを押さえるとなると──
「ば、馬鹿手を離しなさい!」
顔色を変えて叫ぶマリエルを無視して匠は必死の形相で押さえ続ける。
腕から、胸から、マリエルが纏った風に触れている全ての箇所が切り裂かれていく。
「腕がちぎれるわよ!?」
鮮血が風に乗ってマリエルの後方へと飛沫のまま流れていく。
一思いに殺すつもりだった。けれど、口をついて出る言葉はまったく逆だった。
自分の気持ちがもう分からなかった。
「うううぐぅ……!!」
何故こんな戦い方をするのか。手を離して他の方法に賭けるとか、もっと方法はある筈だ。
「やめなさい……! やめて、お願いだからっ!!」
匠の右腕の肘の辺りがちぎれかけていた。それでも匠は手を離そうとはしない。
マリエルは耐え切れずに瞳を逸らした。
お願い止まって。
力よ、早く止まって!
「ああああああっ!!」
匠の咆哮が一際高く響き渡った。
その声に反応するかのように風はようやく勢いを失っていき──ついにマリエルの身体は匠を突き抜ける事なくその場に落ちた。
匠はなんとか腕がちぎれずに済んだようだった。肩で息をする匠を、マリエルは泣きそうな顔で見返していた。

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