28〜不器用に生きて

「生誕を待つ聖母の棺(マリーズ・コフィン)!」
「ジーニーちゃんっ!」
足元から鋭い氷の木が出現するのを横っ飛びに避けながら、匠は錆びたペーパーナイフコレクションの一つ<ジーニー>をマリエルに向かって一閃させた。地面を抉りながら迫り行く衝撃波を、しかしマリエルも横に飛んでかわす。
銃撃戦のように距離を保ったまま平行に走りながら、お互いに隙を探りあう。
「狂い咲く赤い薔薇(スプレッド・ローゼス)!」
「甘めえ!」
迫り来る火球に向かって<ジーニー>を横薙ぎに斬る。
二人の丁度中間で、衝撃波をぶつけられた火球が炸裂する。光と熱が一気に膨れ上がる。
と、匠は立ち昇る黒煙を好機と見て進路を九十度曲げた。煙の中から一気にマリエルを狙わんと<ジーニー>を逆手に持ち替える。
速度を上げて煙を抜けて──
と、煙の中から人影が現れた。
「彷徨う燐火の蔓(ウィスプ・ヴァイン)!」
マリエルもまったく同じ事を考えていたようだった。仄かに白く発光する鞭を振りかぶって、匠へと詰め寄る。
この力は身を以って知っていた。錆びたペーパーナイフコレクションの一つ、<アラジン>を粉砕する程の力だ。
「くそっ!」
ほぼ出会い頭だったので避ける暇などなかった。匠は一瞬で決断し<ジーニー>を突き立てるように身体を更に前に倒した。
玉砕覚悟の匠の行動に、さすがにマリエルもただ振り下ろすわけにはいかず、鞭の端を掴んで胸に迫るナイフに巻きつけた。
寸前のところでナイフが止まる。ぎちぎちとせめぎ合う音が響く。
「ふん、やるじゃない」
乾いた音を立てて<ジーニー>の刃が欠けた。
「お前も」
匠は唇を片方だけ持ち上げた。
と、マリエルが光の鞭を消すと同時に後ろに倒れこんだ。
支えていた力がなくなって前につんのめる匠。そこを狙ってマリエルが叫んだ。
「穿つ光の雫(ラプトリアル・ドロップス)!!」
何者にも見切る事は出来ない、マリエル最大にして最速の力が解き放たれる。
鋭い衝撃が匠を襲う。
勝った──
マリエルは既にそう思っていた。なんせ相手が気づくのは地面に這いつくばってからなのだ。
しかし、凱歌を歌うには早すぎた。
「な──」
言葉にもならない驚愕がマリエルの口から漏れた。

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