7〜不変が笑う

「アンブレイラ、行くよ!」
「生誕を待つ聖母の棺(マリーズ・コフィン)!」
骨組みの壊れた匠の折り畳み傘が、翁の顔の前で広がる。同時にマリエルの力で足を固着する。傘は意志を持っているかのように顔に吸い付くと、中心の柄がピストンとなって何度も打ち込まれた。
「がああっ!」
苦しさに巨体を揺さぶってもがく翁。
「尖の鷹」
桐崎の肥後守が、匠が打ち込んだ傘の柄を正確に捉え、更に押し込んだ。
「痛い、痛いではないかあっ!」
傘を引きちぎり、凍った鳥足を自ら切断して翁は後ろへと飛び退る。その顔はめちゃくちゃに潰れ、いびつな左腕のみで立っている。
「まだまだ──狂い咲く紅い薔薇(スプレッド・ローゼス)!」
追い討ちを仕掛けるマリエル。爆炎が翁の身体を包む。この爆発自体は効果がない。
それは三人共分かっているようだった。
爆発を更なる追撃の合図とばかりに、匠と桐崎が頷いて飛び掛る。
「暗の蛇」
黒煙の中へと放たれた肥後守の手応えを感じて、桐崎が指を軽く回転させる。
「ズガ・コウサクちゃん!」
狙いを心臓に定めて匠が鋏を袈裟切りする。
しかし──
「いないぞ!?」
その声に桐崎とマリエルが身構える。
後ろは奇跡の光が吹き出る縦穴。
「やっぱり──」
マリエルが一人頷く。桐崎が説明を求める顔を見せた。
「あの光の粒子生命体は、人間の欲望を反映するように宿るのよ。それはその想いが強ければ強いほど大きく。翁の想いは──何百年分って言ってたわ」
「だとすると──」
桐崎が細い目を更に細めて光を見やる。
匠が、晴れかけの煙から伸びた腕に吹き飛ばされた。マリエルと桐崎の間まで転がってくると、一回転して起き上がった。
「あいつ再生しやがる。しかも強くなってやがる」
血が混じった唾を吐き捨てて匠が言う。
「やはり奇跡は偉大だね、マリーや」
無くした筈の鳥足で大地を踏みしめ、顔も元通りになっている翁が、恍惚の表情で深呼吸をした。心なしか鳥足が大きくなっていた。
「しょうがない、一度奇跡を封印するしかないわね──支配者、欠落巫女に言って」
頭を掻くマリエルに、桐崎は翁を見据えたままで、もうやって貰っている、と答えた。
「何ですってっ!?」
その驚きは勝手に封印しようとした事に対してではない。
封印しているというのにまるで効果がないという事に対してである。事実、奇跡の光は弱まる気配を見せない。
「それじゃあ翁は何度でも──」
「復活するって事か?」
匠の問いにマリエルは答えなかった。
「とりあえず、だ」
桐崎が割って入る。
「あの化け物を奇跡から離す事を考えるとしよう」

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