15〜星が泣いて

「始まったか……!」
ところどころ塗料が剥げ落ちた鳥居をくぐったところで微震を感じ、桐崎は足を止めた。ただの地震ではない事は凪の様子を見れば明らかだった。
「ぁあぁぁあ……っ!」
手を伸ばして空虚な瞳で神社の奥を指し示す凪。
「凪……あっちなのね」
両肩に手を置いて優しく顔を覗き込む雪。まったくの無反応だったが、雪は笑顔を崩さなかった。少しだけ抱きしめてから、桐崎に向けて首を縦に振る。
再び歩き出す三人。境内の石畳に足を取られそうになりながらも凪を離さない雪を一瞥し、桐崎は視線をその奥へと向けた。
まさか紬神社だったとは予想もしていなかった。それも仰々しい母胎門のせいだったが、亡き父に文句を言っても始まらない。
「若君」
考え事をしながら足を進めていると、横から声が掛かった。
軽く振り返ると、雪が不安気な目で桐崎を見つめていた。徐々に大きくなってきている揺れのせいだろう。
「急ぐぞ……今ならまだ間に合う」
雪の表情が翳った気がしたが、そんな事には構っていられなかった。間に合うとはいえ、奇跡の場所にはマリエルがいるのだ。認めたくはなかったが、どう見ても分が悪い。
野鳥が慌てて飛び去っていくのが目に留まる。
「あっちは……確か糸紬丘」
頭の中に瞬時に広げた紬町の地図で照合しながら呟く。
「きゃああっ!」
ひどい揺れに立っていられなくなった雪が、凪と共に地面を転がる。
そんな中、桐崎の耳に大地がうねるような音が届いた。まるで地の底を大きな蛇が這うような重い地鳴りは、この揺れによるものではない。
「地球の泣き声か……」
地球が内側から食い破られようとしている。これは、その痛みの泣き声だ。
揺れが最高潮に達する中、桐崎は一人立ち尽くしていた。
遠くに生まれた、薄紅色の微かな光を苦々しく見つめながら。

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