13〜星が泣く:10

「来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来るッ!!」
瞳を輝かせながら、マリエルは全速力で匠の方へと真っ直ぐに向かって来る。
「マリー!」
勝利の喜びを分かち合おうと手を上げるが──
「邪魔ぁッ!!」
視界一面が真っ赤に、それから靴底で埋め尽くされる。
「うおお!?」
顔面を踏み台にされ、仰け反る匠。革靴の踵に昏倒させられそうになりながらも、首を振って別世界へ飛びかけた意識を呼び戻す。
マリエルはというと、背後の一枚岩の上で何やらはしゃいでいた。
「てめぇ……アレな幻覚が見えたじゃねえか……」
マリエルを追って岩の上に這い上がりながら匠が呻く。
「あー何ようるさいわね。来んのよ今! 奇跡がッ!!」
「マジかっ?」
マリエルなりに感じるものがあるのだろう。匠もその言葉を信じて瞳を輝かせた。
「そっかーついに来るのかー。ところでマリー」
「何よ」
喜びに水を挿されたマリエルが、不機嫌を顔いっぱいに広げて振り返る。さながら飛び掛る寸前の猛犬のようだった。
「傷治してくんねーか? 実はもうくたばりそうだったりする」
それを聞いてマリエルの顔が明るさを取り戻した。
「そう、それは良かったわ。手間が省けた」
「いや、冗談言ってる場合じゃないぞ」
「ええ勿論。さっさと死ねってば」
友人と交わす挨拶のように、笑顔で軽く手を振りながらマリエルはにべもない。
匠も目の端をひくつかせながらも、何とか笑顔を繕った。握り拳に力が入りすぎて血が滴る。
「そこを……なんとかさあ?」
「ち、分かったわよ」
渋々マリエルが匠の腕を取る。それから力抜いてね、と言って袖をまくった。
「じゃ、いくわよ」
「おう」
「常緑樹の(エヴァーグリーンズ)──」
「待てコラぁっ!!」
慌てて腕を引き離し間を取る匠。
「なによ、冗談よ」
マリエルが唇を尖らせて抗議するが、目の奥が不気味に輝いたのを匠は見逃さなかった。
こいつ絶対本気だった、と匠は思った。
「マジで……頼むぜ?」
「冗談だって言ってんでしょ、ほらさっさと腕」
言われてもう一度腕を差し出す。マリエルは腕を掴むと、投げやりな態度で口を開いた。
「ほーごーするいのちのいとぉ(ウィッシュ・ストリングス)ー」
「お、おおっ?」
腕から体内へと、不思議な感覚がどんどん広がっていく。
「ちょ、何かグロいぞこの感覚ぅッ!」
全身を内側からまさぐられるような気持ち悪い感覚にのた打ち回る匠。だが確実に傷は塞がっているようで、徐々に痛みが引いていくのが感じられた。
「文句言ってんじゃあないわよ」
「お、おうすまん……」
四つん這いの格好で踏ん張りながらも手を上げると、ふん、とマリエルが鼻を鳴らした。
見えない手術が終わると、匠は健康な身体ってのも捨てがたいな、などと思いながら伸びをした。と、眩暈がして景色が斜めにぶれた。
「あーやべ、血ぃ流しすぎた」
額を押さえて軽く唸る。こんな状態なので、直射日光が恨めしい。と、マリエルから声が掛かる。
「ねえ、一日しか生きられない星があるって言ったら信じる?」
唐突に問われて匠はマリエルへと振り返る。
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