7〜星が泣く:4

「自殺志願の気があったのか?」
たっぷりと間合いを取って、匠と湯浅が再び対峙する。
「惨殺志願の気なら今メチャメチャ湧いてるけどな」
「そうか。だがいかに魔女が九条を追い詰めようとも、あいつは俺に対しての共鳴者<カナリヤ>だ。お前が九条から攻撃されない保障はない」
帽子のつばを軽く押さえながら、さらりと湯浅が言う。
「それなら──銃弾が止んだ時がお前の最期だと思えよ」
そう言って鋏を懐にしまう匠。それを訝って湯浅が眉を細める。
「頼みのがらくたをしまってどうする気だ?」
「こうするのさ」
と、拳を顔の前に持ってくる。負傷した右腕は相変わらず垂らしたままだったが、ファイティングポーズだという事は湯浅にも分かったようだった。
「愚鈍にも程がある──がらくたががらくたを使わずして何になる」
「強くなる」
「そうか。では死ね」
湯浅が地を蹴って匠に詰め寄る。喉を狙った恐ろしく速い貫き手を皮一枚でかわしつつ、匠も左手で腹部を狙う。しかし湯浅は動じる事無く、空いた片手で匠の拳を叩き落して、貫き手をそのまま九十度回転させて首を掴む。
首をへし折られる瀬戸際、匠は一瞬笑みを零すと、垂らしたままだった右手で湯浅の顎を突き上げた。
思い切り掌打を浴びて仰け反る湯浅の首を逆に掴んで、間髪入れずに膝蹴りを放つ。
今度は湯浅が地を這う番だった。
「ふう」
構えは解かずに一息つく。
「違う──」
そう呟きながら、跳ね起きて湯浅が再び拳を繰り出す。あまりにも速い連打だったが、匠も<両手>を使って確実に一撃一撃を捌いていく。
「うおぁっ!」
連打の応酬の中見つけた一瞬の隙を突いて、匠の足払いが湯浅の身体をすくった。
そこに肩から渾身の力を込めてタックルを当てる。その衝撃は結構なものだったらしく、巨体が二、三メートル宙を舞った。
追い討ちを掛ける事はせずに、肩で呼吸を整える。これが効いたなどとは、匠はまったく思ってはいなかった。
「明らかに動きが違う……がらくたも使っていないのに──」
何事もなかったかのように起き上がりながら、湯浅は合点がいったようで舌打ちした。
「そうか、お前のその傷……今はお前自身ががらくた、という訳か」
「がらくたとは失礼だな。けど、多分当たりだ」
白い歯を見せて意地悪く笑う。
「私一人でもいけると思ったが……しょうがない、<全員>でいくか」
あくまでも冷静に、湯浅が構えを取る。
(ここからが本番ってか……。さてどこまで持つかな……)
九条の銃弾が止むまで何とか凌ぐしかない、と匠は歯を軋ませた。
と、そんな匠の考えを読み取ったかのように、湯浅が口を開いた。
「あの魔女が九条を倒す事を期待するのは止めた方がいい。九条は基本的に狙撃手だが、ハンターでもある。こんな林の中ではいかに魔女といえど、九条の姿すら拝めんよ」
悠々とした台詞の湯浅に、匠は反吐が出る思いで唾を吐き捨てた。
「マリーを舐めんなよ──たかが狙撃が上手いだけの人間ごときが叶う相手じゃねえぞ」
それを聞いて、たっぷりと間を置いてから、湯浅は口の端を上げて一言だけ吐き出した。
「すぐに答えは出る」

<<前目次次>>
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送