5〜星が泣く:2

触れなくてもやがては切れてしまう細い糸のような、脆弱な均衡を破ったのは匠だった。一瞬にして取り出したヨーヨーを湯浅に向かって投げ放つ。
湯浅はそれを半身を引いて難なくかわすと、戻り際のヨーヨーを鷲掴みにする。
それを見て匠の口元が綻ぶ。
「これはサービスの威嚇射撃だ。ほら来いよ、俺はこんなに傷だらけだぜ?」
挑発に対して湯浅は軽く鼻を鳴らすと、手を放してヨーヨーを解放した。
「仕方ない、では行くぞ。後ろに気をつけたまえ」
言われた瞬間、背後に殺気を感じて二人同時に飛び退る。マリエルは瞬間的に後方を見たが、そこには誰もいなかった。
匠とまったくの逆方向に飛んでしまったが、気にせずにそのまま、湯浅に対して身体を前に向ける。殺気と同時に飛び込んできた湯浅を挟む形になったのだ。むしろ良い形である。
「ズガ・コウ! サクッ!」
「狂い咲く赤い薔薇(スプレッド・ローゼス)ッ!!」
二人同時に湯浅に向かって攻撃を仕掛ける。空間の断裂が、四つの赤い光がそれぞれ真っ直ぐに対象へと迫るが──
「阿呆が」
そう吐き捨て、真上に足を曲げてジャンプする湯浅。爆発寸前の火球三つが空間の断裂に飲み込まれて消える。そして残った一つに向かって右拳を思い切り叩きつけると、火球は地面に向かって爆発の波を吐き出した。
何事もなかったかのように降り立つ湯浅。
「ちょっ、匠何してくれてんのよ!!」
「あーっ!? おめーこそ上に避けるだろうって事くらい読んで撃てよ! その為に分かり易い一発を出したんだからな!!」
「とにかくっ! 邪魔はしないで頂戴!」
湯浅を挟んで不毛な言い争いをするマリエルと匠。と、湯浅がいつの間にか吸っていた煙草の煙を吐き出して、声を上げ笑い出した。
「クッフッハハハ……! やはりな、お前ら確かに強いが二人いるとまるで駄目だな。お互いがお互いを殺してる」
「あー? うるさいわよ、次はちゃんと殺してやるからさっさとかかって来なさいっての」
不快に次ぐ不快に、髪の毛が逆立つような感覚に囚われるマリエルに、湯浅が煙草を向ける。
「ん……? もう向かっているが?」
「左だマリー!」
匠の言葉に刹那戸惑うマリエル。殺気は明らかに背後に生まれたからだ。それを左とは──
その僅かな反応の遅れが失敗だった。
「っきゃああっ!!」
左肩に身体が吹っ飛ぶ程の鋭い衝撃を食らって、悲鳴を上げながら一枚岩に激突する。
何が起こったのかまったく分からなかったが、それでも倒れてる場合じゃない、と痛む右腕に無理を言わせて跳ね起きる。
見ると肩は射抜かれたようで、傷口はまざまざと赤黒い穴を覗かせていた。
左、桜の雑木林に視線を移す。ほとんどの木は葉など抜け落ちており、見通しはかなり良好である。それでも隠れられると言えば隠れられるのだが、ここから見えるどこかに隠れているのなら、気配を絶っていたとしても攻撃に移る瞬間の殺気に気づける自信はある。それがないという事は、射抜かれた事から考えてもかなり遠くから撃ってきたのだろう、と考えたいところではあった。
しかし──
(じゃあ背後に生まれた殺気は何だっていうのよ)
攻撃される瞬間、唯一にして明らかな情報は背後の殺気だけだったのだ。もう一人──確か九条といったか──が木の陰に隠れていたとするなら、その説明がつかない。

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