4〜星が泣く:1

掴まれた腕を逆の手で握り返して、マリエルは強く言葉を返す。常緑樹の涙(エヴァーグリーンズ・エンド)の発動時間の方が匠の鋏よりも早い確信がマリエルにはあった。匠が左手を少しでも動かそうものなら、瞬時に発するつもりだった。
「さあどうするの? このまま消えるなら見逃して──」
「クーイズッ!! 第一問ッ!!」
マリエルの言葉は匠の馬鹿でかい声によって掻き消された。クイズ……? とマリエルは匠の顔を二度見た。
「俺の力が十、マリーの力が十、敵はそれぞれ九と六、合わせて十五。さあどうするよ?」
いったい何を、と思いながらもマリエルは答える。
「そんなの一人づつ撃破すればいいじゃない」
「ぶっぶー不正解。それが出来たら苦労はしないんだよなー」
「じゃあ何よ? 力を貸せっていうの? 冗談、そんなめんどくさい事やってられないわね」
「じゃあ一人でやってみ」
と匠が岩の下へと飛び降りた。その瞬間、匠と逆の方向から一人の男が飛び出してきた。トレンチコートで全身を包み、同じ色の帽子を目深にかぶっているその男は、何も言わずに岩の上に飛び乗ると、素早い動きで一気に詰め寄り、マリエルに向かって拳を繰り出してきた。
「んなっ!?」
魔法めいた力を出す間もなく、がら空きの身体に拳が捻りこまれる。とっさに後ろへと上体を退いていた為致命傷にはならなかったが、体重の軽いマリエルはバットで打ち返された打球よろしく、岩の上から桜の木へと凄まじい勢いで吹き飛ばされた。
「うぐぅっ!」
背中をしたたかに打って地面へと落ちるマリエル。この時期に来て敵対する者などいったい誰なのか、まったく見当がつかない。
しかし相当強い。
「外から来た奴らだ。そいつは湯浅、そしてどっかに由香里って奴もいる筈だ。どうよマリー? これは俺達力を合わせないと勝てないよなあ〜」
どこに行ったかと思っていたら、すぐ横で腕を組んでまっすぐに立っていた匠。その目は岩の上、湯浅を捉えて放さない。
「一人ならお前だけでもイケるだろうけどな、由香里が何処から狙ってるか分からねえからなー。お前一人じゃ無理だろうなー」
「よーするに……あんた一人じゃ勝てなかったって事でしょ……。ったく、テメー一人でまいてこいってのよ……」
腹を押さえながらゆっくりと立ち上がると、マリエルは匠に視線を移した。何でこいつはこんな面倒な事を持ち込んでくるのか。
「お前が革命魔女マリエル・ウォールドだな?」
岩上から湯浅が問いかけてくる。
もっとも答えを必要としているようにも見えなかったが。
「あいつらは俺達みたいな能力者を一人づつ排除しようとしているみたいなんだ。奇跡が始まる前に、な。だから俺がいなくてもいずれマリーも狙われていたさ」
「連れてきたのは自分のせいじゃないって言いたいのね?」
「いやいや、敢えて後をつけさせたんだ。俺達が組めば余裕だからな。そして俺達はもうこの場所を動かない。追い詰められているのは湯浅達の方なのさ。今出てきたのがその証拠だ。違いますかあ? 追跡無人<ワーカーホリック>さんよおー」
岩上の湯浅を仰ぐ匠。逆光に包まれた湯浅はまったくの無言で二人を見つめ返す。
マリエルも同じく見上げながら、基本的に有利なのは上にいる方か、と考える。

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