3〜素晴らしき邪魔者

一番高くなった太陽に身を捧げるかのように一枚岩の上で仰向けになって、マリエルは待ち続けていた。目をつぶって──何を考えているのかと聞かれれば、何を考えていたのかと思い返してしまう程に、今のマリエルは何にも囚われず、ただ浸っていた。それはとても優しくて温かかったからなのだが、それすらもマリエルは考えてはいなかった。
全てに等しく暖かさを与えてくれる陽光ではなく、体温のようなとても近い所に感じる不思議な温かさが、今マリエルを包んでいるのだった。
そうそれは上からではなく下から。他の者には決して感じる事の出来ない温もりに抱かれて、マリエルは岩肌を優しく撫でてはまどろんでいた。
と、突然遠くから土を蹴る音が近づいてくるのを察知し、マリエルは野生動物並みの反応で起き上がった。
誰だろうか、と思案する。迷い込んだ者なんかでは決してない、一直線にこちらへと向かってくる気配。明らかな敵対者は潰した筈だった。
マリエルの顔が途端に渋くなる。敵じゃないのなら、何を考えているのか分からないあの男しかいないからだ。
「ふん、来たのね……匠」
木々の合間から足に急ブレーキを掛けながら登場した匠に、マリエルは心底邪魔そうに言い放った。
「よ! 勿論だぜー。ふぅーまだ始まってなくてヨカッタヨカッタ。これを見逃しちゃあ一生後悔するところだからなー」
「そんなに焦るものじゃないわ。じっくり待ってないと、こういうものは」
「ふーん。開演前の静かな興奮ってところか。お、そうそう、マリー」
「何よ」
「紹介するよ、ピエトロ君。ほら挨拶。こんにちはーってか」
自分で言いながらピエロの操り人形の首を前に倒す匠。
「遊びなら他でやってくれない?」
「お前がピエトロ君の声聞こえない筈はないだろー、なあ」
「私までがらくただって言うの? 笑わせないでよ。あんたに好かれるのも一緒の感覚だとばかりに喋られるのもウンザリなのよ!」
マリエルは我慢の限界だった。確かに自分と関わった数少ない存在ではあるが、ペースを乱されるのはもうごめんだった。
赤い光を手のひらに生み出す。
「言った筈よ、私は一人でいいって。さあ、私の前から消えて頂戴」
「でも勝手にしろとも言ったよな」
「私の邪魔になるのなら潰すわ! 狂い咲く赤い薔薇(スプレッド・ローゼス)!!」
岩の下にいる匠に向かって光を放つ。
が、匠は跳躍しつつ左手の鋏で軽く光に向かって切り込みを入れると、そのままマリエルの前に着地した。岩の下で起こる筈だった爆発は不発どころか、その存在そのものを空間の歪みと共に消されてしまった。
「な……!」
「本気を出したらお互い無事には済まない。だから俺達は戦うべきじゃない」
途端感情を殺したような顔になった匠に腕を掴まれて、マリエルは一瞬たじろいだものの、すぐに射抜くような目つきに戻した。
「そうかしら? あともう少しだけ時間もあることだし、そろそろ私もこの世界での整理をつけとくべきだと思うのよ」
「そうかな? 愛する者を殺めてまで押し通した行動だろ? つまらないプライドで俺と戦って──ふいにしちゃってもいいんだ? その程度の事だったんだ?」
「私が負けるとでも言いたげね。この状況は──確実にあんたの不利なのよ?」

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