17〜魔女vsがらくた(その6)

冷めた目のマリエルに、匠は嫌味たっぷりに言葉を返した。
「後藤、早く何かよこせ」
マリエルに聞こえないように匠が後藤を急かす。
そう、匠は強がってはいるものの、危機的状況なのだ。マリエルに、今度は全員が殺されるかもしれない。
「そっか、ぬるかったか。じゃあいっそ思いっきり冷たくしましょうか?」
言うや否や、マリエルが両手を床に叩きつけるように突き出した。
「生誕を待つ聖母の棺(マリーズ・コフィン)!!」
凪は自分の足元に波紋が1つ、広がったような気がした。
「逃げてっ!」
とっさにそう叫ぶと、凪は前方に身を投げ出した。
同時に気体が激しく漏れる音が背後に起こる。
倒れ様見ると、波紋を見た場所から勢いよく霧が噴き出していた。
霧は物凄い速さで凍っていき、やがて複雑な枝振りの氷の樹木が完成した。
凪が異変を感じて飛び出すのがあと1秒遅れていたら、今頃あの氷の枝に貫かれていただろう。
汗がどっと吹き出る錯覚を凪は覚えた。
「もういいかげんうぜえ!!」
樹氷の影から匠が飛び出た。空手である。
「同感よ!!」
マリエルも同時に飛び出る。
「ウィスプ・ヴァイン!」
手に光の鞭を出現させ、一気に間合いを詰める。
匠はそれにも関わらず突進する。
出来るかどうかじゃねえ、やるかやらないか、だ。
凪の脳裏に先程の匠の台詞が響いた。
「匠ーー」
徒手空拳の匠に、鋭く光の鞭が襲い掛かる。
横薙ぎの一撃を上半身を引いてかわすと、匠はマリエルの右手、鞭を持った方へと身体を潜り込ませた。
次の攻撃を繰り出させないためだったが、マリエルはいともあっさりと光の鞭を消すと、今度は左手に赤い光を宿した。
それはちょうど匠の脇腹の位置だった。
「スプレッド・ローゼス!」
「させるかっ」
匠はマリエルの右手を掴み上げると、社交ダンスのように自分の身体を一回転させ、背後に回りこんだ。
「自分でくらいなっ!」
「じゃあおかまいなく!」
「何ィーー!?」
ここで爆発すればマリエル自身に直撃すると踏んだのだが、マリエルはそんな匠の言葉にあっさりと肯定した。
匠に握られたままの右手を支点にして、マリエルが匠の頭上に飛び上がる。
その瞬間匠の足元に向かって光が爆発した。
「ちょっと、何すんのよ!」
マリエルが喚く。
「お前、軽いなー」
匠は腕の中にいるマリエルに向かって笑いかけた。匠は爆発の瞬間、マリエルごと抱えて跳躍したのだった。
「ふいー。危なかったー」
「最っ低っ!死ね!!」
「おっと」
もう聞きなれた轟音が再び響く。匠は大きく飛び退くと、今度は鬼ごっこよろしく、マリエルの周りを走り始めた。
爆発音から逃れ続ける匠。
「あいつは何をやってるんだ」
後ろから掛かった声に凪が振り向くと、いつの間にか後藤が7人の部下と共に立っていた。
「何って言われても・・・」
急に遊びだしたようにしか見えない。凪は後藤同様首を傾げた。
とーー匠と目線が合った。至極真剣な眼差しである。
(えーー)

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