16〜魔女vsがらくた(その5)

とりあえずは凪の姉は無事のようだ。
「さて、正面切るゲボはねえよな」
匠は口の端を上げると、横の後藤に手を差し出した。
「何か使えるもん貸せ」
目もくれずに言う匠のその手に、後藤は歯を軋ませながらも一丁の小型の銃を乱暴に置いた。
「っておい、シングルアクションかよ。おめーそんなんじゃーいざって時桐崎守れねーぞ」
一瞥して嫌味を言う匠に後藤は、
「高かったんだ・・・」
とだけ漏らした。
「そんじゃま、やるか」
匠はそう言うと、最後の鉄格子まで足音を立てぬよう慎重に歩を進めた。凪達もそれに倣って後に続く。
鉄格子の扉部分を狙撃ポイントに定めた匠が、少し腰を低く身構えた。
ここからマリエルまで、約50メートルといったところだろうか。
そんな小型の銃でここから当たるのか凪は心配だったが、横を見ると匠の顔は自信に満ちていた。
「お姉ちゃんに当てないでよ・・・?」
「ばっか、俺を誰だと思ってる」
「今日、会ったばっかなんだけど・・・」
当惑する凪を無視して、匠は銃を握った右手を真っ直ぐ突き出し、左手を撃鉄に添えた。
呼吸を止める匠。
次の瞬間、左手のスライドに合わせて重く乾いた音が立て続けに6回、鳴り響いた。
遠くでマリエルの身体が跳ねるように震え、座るようにその場に崩れた。
シングルアクションでの6連射。銃の事がよく分からない凪でも、難しい事は理解できる。
こんな技も持っていたとは、凪は心底感心しながら匠を見やった。
・・・匠の顔は、心なしか蒼ざめて見えた。
「匠ーー?」
凪の呼びかけに、匠は銃を持った手を震わせるだけだった。
「まさか、お姉ちゃんを・・・!」
と凪は姉を見たが、大丈夫のようである。
「後藤っ!!」
匠は突然、持っていた銃を後藤に投げつけ詰め寄った。
「てっめー俺が使えるもんよこせっつっただろ!!」
充分自信満々に使っていたじゃん、と凪は心の中で呟いた。
しかし、意味が分からない。使えないのなら初めから言えばいいのに。
凪はやっぱり匠という少年を理解できない、と思った。
「うるさい!充分使えるだろう!何で貴様はがらくたしか扱えんのだ!?」
「なるほど」
「なんだ?」
凪の納得の台詞に、同時に向き直る男二人。
凪は、何でもない、どうぞ、と手で促した。
「とにかぁく、俺に使えるもん出せ」
「え、ちょっと待て」
後藤が疑問を口にした。
「当たってはいないのか?魔女に」
「ああ」
匠の声に合わせて、マリエルがすっと立ち上がった。びっくりしたー、なんて声が小さく響いた。
その光景に、匠以外の全員が戦慄した。不意打ちが失敗した、という事は勝ち目がかなり薄くなるからだ。そして凪の姉、雪はマリエルの傍である。
「ちょっと匠、どうしてくれんのよ!」
凪の非難の声に後藤と7人の部下も、そうだそうだ、とまくし立てた。
「ふん、だから期待されんのは嫌なんだ」
匠は完全に拗ねたらしく、喚く後藤達を黙らせる事もしないで、マリエルに向き直った。
「生きてたの。さすが<がらくた>、といったとこかしら?」
「さあ?お前の攻撃がぬっるいだけじゃねーの?」

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