14〜戦力外

すれ違い様投げられた言葉に、凪は唇を噛み締めたが、それ以上何も出来なかった。ーー振り返る事すらも。

どれくらい経っただろうか。
凪はへたり込んだままで涙を流し続けていた。
取り柄の行動力で何とかなると思っていたが、結局何も出来なかった自分が、凪は堪らなく悔しかった。
(ばっかみたい。今だってそうーー)
凪は虚ろに天井を振り仰いだ。
(私はまだ動けるのに、お姉ちゃんを殺そうとする魔女を止めにも行けない)
凪は見上げる仕草に続きがあったかのように、身体を仰向けに倒した。
そして顔を両手で覆いながら、凪は声を出して泣いた。
「お姉ちゃああんっ!うあああぁぁ・・・!!」
恐怖で動けなかった事、戦力外と言われた事、今も動けない事、それが姉を見殺しにしている事。
それらに耐え切れない心が、嗚咽となって外へ吐き出される。
咳き込み、涙が顔をぐちゃぐちゃにして、やがてその涙すら枯れ果てても、嗚咽は止まらなかった。
凪は身体を折り曲げ横になった。
このまま寝てしまいたい。そんな思いに駆られる。

ばーか。

次に生まれたのは、自分への嘲り。

ばーか。

より強まる、嘲りの声。
声・・・?
「ばーか」
はっきりと聞こえる声。凪が顔を覆った手をどかすと、そこには心底見下した目をした匠がいた。
いつのまにか、凪のすぐ横にしゃがみこんでいたらしい。
「ひゃっ!!」
素っ頓狂な悲鳴を上げ、凪は慌てて身体を起こした。
「た、匠・・・!」
「ほんと、お前馬鹿なのな」
そこで切って、溜めるように間を置いてから匠は表情一つ変えずに続けた。
「ただ泣き喚いてるだけか?」
「私にはどうすることも出来なかった!
私はあんたたちのような力なんて持ってないの!」
泣き腫らした瞼で言い返す凪。
「私があの時どう立ち向かっても敵うことはなかった!私はただの人間よ!?」
「じゃあ今何故行かない?」
「言ったじゃない、敵わないってーー」
「動けるだろ、もう。あの時は動けなかったとしても。
背後から襲えば何とかなるかもしれない」
そこで匠は立ち上がった。
「要するに、覚悟が足りねーんだ、おめーは。
圧倒的に、蟻の脳みそくれーな」
「助けて、匠・・・。お願い・・・」
凪は匠の足に縋り付いて懇願した。枯れたと思った涙が再び溢れてきた。
地に頭を擦り付けんばかりの凪を、匠は心底鬱陶しそうに払いのけた。
「言った筈だ、俺に期待するなって。
いいか、出来るか出来ないかじゃねえ。やるかやらないか、だ。
さあ立て。俺は手を貸さねえ」
そう言うと匠は凪に背を向けた。
何秒、何十秒、何分と経ったか。沈黙を続ける匠の背後で、嗚咽が止んだ。
「怖いよう・・・死ぬのは嫌だよう・・・
でもお姉ちゃんを助けたいよう・・・!!」
凪は震える膝を押さえ込みながら、ゆっくりと立ち上がった。
「そうだ、それでいい」
匠は振り返る事なく、凪に手を差し伸べた。冷たいが柔らかい感触を受け取ると、匠は力強く握り返した。
「さあ行こう」
匠はいつになく優しく言った。

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