すれ違い様投げられた言葉に、凪は唇を噛み締めたが、それ以上何も出来なかった。ーー振り返る事すらも。
どれくらい経っただろうか。
凪はへたり込んだままで涙を流し続けていた。
取り柄の行動力で何とかなると思っていたが、結局何も出来なかった自分が、凪は堪らなく悔しかった。
(ばっかみたい。今だってそうーー)
凪は虚ろに天井を振り仰いだ。
(私はまだ動けるのに、お姉ちゃんを殺そうとする魔女を止めにも行けない)
凪は見上げる仕草に続きがあったかのように、身体を仰向けに倒した。
そして顔を両手で覆いながら、凪は声を出して泣いた。
「お姉ちゃああんっ!うあああぁぁ・・・!!」
恐怖で動けなかった事、戦力外と言われた事、今も動けない事、それが姉を見殺しにしている事。
それらに耐え切れない心が、嗚咽となって外へ吐き出される。
咳き込み、涙が顔をぐちゃぐちゃにして、やがてその涙すら枯れ果てても、嗚咽は止まらなかった。
凪は身体を折り曲げ横になった。
このまま寝てしまいたい。そんな思いに駆られる。
ばーか。
次に生まれたのは、自分への嘲り。
ばーか。
より強まる、嘲りの声。
声・・・?
「ばーか」
はっきりと聞こえる声。凪が顔を覆った手をどかすと、そこには心底見下した目をした匠がいた。
いつのまにか、凪のすぐ横にしゃがみこんでいたらしい。
「ひゃっ!!」
素っ頓狂な悲鳴を上げ、凪は慌てて身体を起こした。
「た、匠・・・!」
「ほんと、お前馬鹿なのな」
そこで切って、溜めるように間を置いてから匠は表情一つ変えずに続けた。
「ただ泣き喚いてるだけか?」
「私にはどうすることも出来なかった!
私はあんたたちのような力なんて持ってないの!」
泣き腫らした瞼で言い返す凪。
「私があの時どう立ち向かっても敵うことはなかった!私はただの人間よ!?」
「じゃあ今何故行かない?」
「言ったじゃない、敵わないってーー」
「動けるだろ、もう。あの時は動けなかったとしても。
背後から襲えば何とかなるかもしれない」
そこで匠は立ち上がった。
「要するに、覚悟が足りねーんだ、おめーは。
圧倒的に、蟻の脳みそくれーな」
「助けて、匠・・・。お願い・・・」
凪は匠の足に縋り付いて懇願した。枯れたと思った涙が再び溢れてきた。
地に頭を擦り付けんばかりの凪を、匠は心底鬱陶しそうに払いのけた。
「言った筈だ、俺に期待するなって。
いいか、出来るか出来ないかじゃねえ。やるかやらないか、だ。
さあ立て。俺は手を貸さねえ」
そう言うと匠は凪に背を向けた。
何秒、何十秒、何分と経ったか。沈黙を続ける匠の背後で、嗚咽が止んだ。
「怖いよう・・・死ぬのは嫌だよう・・・
でもお姉ちゃんを助けたいよう・・・!!」
凪は震える膝を押さえ込みながら、ゆっくりと立ち上がった。
「そうだ、それでいい」
匠は振り返る事なく、凪に手を差し伸べた。冷たいが柔らかい感触を受け取ると、匠は力強く握り返した。
「さあ行こう」
匠はいつになく優しく言った。
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