10〜第三勢力

敵の命令だというのに従った後藤は、一瞬後の爆発にその行動が正しかった事を痛感した。
背中をえぐられるような熱風に、凪を抱えたままうずくまり耐える後藤。
「ちょっと!気持ち悪いわね!早くどきなさいよ!」
凪の嫌がる声が爆音の中、微かに聞こえた。
匠は正面、凪達の後ろから来る爆炎を避けようともせずに、ただ腕組みをして見つめていた。
ここまでは届かない、と確信していたからだった。
案の定、炎は後藤の立っていた辺りで闇に溶けるかのように消えた。
誰だーー?
匠は驚きを隠しつつ、目を細めて闇を凝視した。
爆炎は急に現れたのだ。それも、完全にベクトルを無視した動きで。
一瞬見えた限りでは、小さな火球が4つ程後藤の後ろの中空に現れ、それが爆発したようだった。
空中で静止する火球。そんな現象はこの世ではありえない事である。
まるで魔法の様だ、匠は結論の出ない考えにとりあえずそう決着をつけた。
「く、くそ・・・誰だ・・・?」
熱に晒された頭を押さえながら起き上がる後藤。彼にも心当たりがないらしい。
もっとも凪には後藤も、闇に潜む誰かも同じ脅威には違いないらしく、隙を見つけて筋肉の枷を振りほどいた。
「あ、貴様・・・!」
後藤の制止の声には耳を貸さず、凪は匠の元へ戻ってくると、彼のじんべえの裾を強く握り締めた。
「さて、誰だか・・・」
匠のその声に反応するかのように、闇の中から声が響いた。
「停滞にしがみつく人間達よーー」
不思議なことに、匠は聞き覚えのある声だ、と思った。
同時に、絶対会った事のない確信を抱きながら。
闇の中に浮かび上がった人影は、足音も立てずにゆっくりと近づいてきた。
一歩、また一歩と影が踏み出すその度に、張り詰めた空気が波紋のように押し寄せる。
やがて現れたのは、1人の女性、それも少女だった。
髪の毛も、瞳も、ケープのついたワンピースも、ブーツすらも、少女をかたどる全てが赤で構成されているその様は、少女がまるで炎の化身であるかのようだった。
そういえばさっきの攻撃も炎だったな、匠は呟いた。
少女は捻り上げて左右に分けた、ボンボンのような後ろ髪を手で軽く梳くと、無邪気に、そして意地悪そうに口の端を歪ませた。
「そろそろ夢から覚めなさい・・・」
「お前ーー・・・」
どこかで会った事あるか、匠は手を伸ばし、少女にそう問いかけようとして、やめた。
答えは絶対に「ない」だからである。
「で・・・何のようだ?俺の邪魔をしなければ別にお前に用はないんだけどね、おじょーさん?」
「口の訊き方には気をつけたほうがいいわよ、人間。
私はマリエル・ウォールド。マリエル様、そう呼んでもらって構わないわ!」
自信たっぷりに口を開くマリエル。
「なあ、マリー」
「口の訊き方に気をつけなさい、と私は忠告したはずーー」
マリエルの手のひらに小さな赤い光が生み出される。
「お、やるか?」
戦う事を望んでいるのか、匠は陽気に笑うと、じんべえに引っ付いている凪を振り払い、懐に手を入れた。
どうやらこれが匠の戦闘体制のポーズらしい。
「どの道殺すつもりだったわ。欠落巫女と一緒にね!」
言い終わるや否や、マリエルは手にした光の球を匠に向かって投げつけた。

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