24〜狂言封印

匠は1人楽しそうに3人を順番に指差して回った。それから顔の前に手をかざしたりする。
「皆さん揃われたようですね……。それでは始めましょうか。何をって? ふっ、決まってるじゃあないですか。この忌まわしい連続殺人の犯人、じゃなかった、茶番劇の顛末を、ね」
「探偵の真似事はいいからっ!!」
我慢出来ずに匠を叱咤する凪。さすがに涙は止まっていた。
「いいじゃんかー凪。こういうのは形が大事だ、なんて思ってもみない事を口にしてみたけど、うんやめよう。早くしないと桐崎が死んじゃうかもだしな。1度冥土の土産って奴を贈ってみたかったんだ」
「物騒な事を……」
「さて始めようか。<まず>雪さんに欠落巫女としての力がないって話だけど──桐崎、お前変だとは思わなかったのか?」
「何……?」
「もし力があるのなら、マリーはなぜ雪さんを解放した?」
「それは……」
口ごもる桐崎に追い討ちをかける様に匠は印を指差した。
「そしてもう1つ。今雪さんが印の中にいない。力があってお前の事が好きで、お前の力になりたいと本気で思っているのなら、印の中にいる筈だ。それともお前、何か決定的に嫌われるような事でもしたか?」
からからと笑い飛ばす匠に対して、桐崎は無言だった。
「おいおいおいおい、まじっすかあー? 嫌われちゃってんですかあー? それだといくら力持ってたってお前のために動く気にはならねーだろうな」
「違う!」
桐崎をかばう気はまったくなかったが、凪は叫んだ。雪が桐崎の事を嫌いだなんて、絶対有り得ない事だと凪には分かっていた。
少なくとも雪は桐崎の事が好きだと、自分が代弁しておかなければまた雪の想いはすれ違って終わってしまう気がしたのだ。桐崎が何も語ろうとはしないのなら、それは自分の役目なのだった。
「お前、そんな怖い顔すんなよ……」
「お姉ちゃんは、お姉ちゃんはっ!! この男の声にだけは反応したのよ! 嫌いなわけないじゃないっ!!」
両手を振って喚き散らす凪に、さすがの匠も少し辟易したのか宥めるように手を突き出した。
「分かったよ、うん、雪さんは今でも桐崎の事を好きだ。っていうかそうでないとここから先に話が進まない。弁護サンクス、だ。さあ桐崎、これで分かったろ? 雪さんに欠落巫女の力は備わっていない」
「そう、だったのか……」
それは凪が初めて見る桐崎の姿だった。
どんな状況でも決して弱腰にならず、包帯まみれになっても独裁者じみた空気を放ち続けた、厳然たる血統の桐崎家の当主として、この町の支配者として在り続けた桐崎若が、初めて落胆したのだ。これ程までに強く矜持を保ち続けてきた者など凪は出会った事がなかった。だからこそ嫌いではあったが、少しだけ可哀相に思えた。
しかしそんな凪とは対照に匠は更に追い討ちをかけるのだった。
「おっと桐崎、まだだ、まだ話は終わっちゃいねえ。落胆するのはまだ早いぞ」
「これ以上何があるというんだ……」
「何って、解答編が終わったら次は後日談に決まってるじゃないか。明かされる衝撃の真実! ってところだな。実は──」
匠はもったいぶって次の言葉を溜めると、3人を見回した。痺れを切らすのを待ってるようである。
凪は桐崎を見た。両手を広げて楽しそうに反応を期待している匠に、桐崎は気力至らずうな垂れる。聞き役は凪しかいなかった。
「何よ、その後日談に当たる部分は。お姉ちゃんに力がない、奇跡を封印できない、この先何があるっていうの?」
「ははは、これは最高に笑えるぞ。いいか、聞いて驚けよ──母胎門はなんともう開く事がない、ただのがらくただったって訳だっ!! 桐崎、お前がずっと監視を続けてきたのはまったくの無意味だったって事だ!」
床を転げ回って高笑いを上げる匠。
「嘘だ……嘘に決まってる……」
「ひゃーっはっはっは……っはー面白え、ホントだって桐崎ー」
と匠は笑うのを止めて立ち上がった。手招きをするように手の甲を桐崎に向ける。
「だって俺がここに来たのは、星の子の奇跡の瞬間にお前達を誘おうと思って来たんだからよ」
「じゃあ気象観測所を……破壊したのは……」
「破壊した時点で<星の子>に何かあったってのは想像つくだろ? 本当の目的は何処で奇跡が起こるかを隠すためだったんだろうな」
「じゃあ何処なんだ……?」
「おっとそれは言えねえよ。お前は怖くねえけど、お前のネットワークは少し危険だからな。ここから連絡されて部下共に先回りされちゃたまんねえからな。ついて来い」

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