21〜十三という鍵

頭の中はさながら乱雑な書庫のようだった。
明け方のダイニングで1人テーブルにつき、念仏のように思い出した事を呟く翁。目の前には上代文学から近代文学、果ては漫画までがうず高く積まれていた。
仲葉灰なる人物から送られてきた書留の中には、13と書かれた紙が一枚入っているだけだった。この時期になんとも不気味な郵便だ──と翁は戦慄し、半日以上もかけて調べていたのだった。
だが13という数字について持ち得る知識全てを掘り返してはみたのだが、結局そのキーワードだけで推測できる物などなかった。13段、13人目、例えばそういった些細な事柄でさえも調べてはみたが、きりがない気さえしてきて本を閉じる事もしばしばだった。
何回目かの休憩。熱い玉露を啜りながら目尻をほぐす。皺がまた1つ増えたような気がした。
翁は65歳になるが、まだ身体は健康そのものだった。
しかし、目に見えて外見はどんどん醜くなっていく。
溜め息1つ。気を取り直して次、一番手前にある本を手に取る。万葉集だった。
翁にある閃きが走る。もしかして──と迷わず十三段の歌のページを開く。
これだろうか。いや、そうに違いない。翁はお茶を横に乱暴にどけて本に食い入るように身体を近づけた。

「天橋も 長くもがも 高山も 高くもがも 月夜見の 持てるをち水 い取り来て 君に奉りて をち得てしかも」

翁は忘れもしないこの歌を、本を裏返しに置いてから暗唱した。夢うつつの面持ちで言い終えてから、翁は気を取り直して13と書かれた紙を手に取る。この紙の意味するところが<これ>だというのなら──仲葉灰なる人物は<分かっている>?
翁は立ち上がりマリエルの部屋へと向かった。
珍しく夜遅く帰ってきて、顔も合わせずに(それは珍しくはなかったが)部屋へと入っていったマリエルと話をしようと思い、ドアをノックしようとしたが、手を出しかけたところで翁は止まった。仲葉灰を知っているかと聞くのは──危険だと思い直したからだ。特に知らなかった場合、最悪の結果になる。
最後の時までマリエルの世話に従事しているべきだ、と翁は足音を立てないようにダイニングへと戻っていった。

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