3〜支配者vs魔女:1  <支配者の力>

桐崎はというと、横へ飛びながら肥後守をマリエルへ向かって投擲していたが、マリエルは爆発を利用して更に跳躍していた為、届かなかった。
「それが狙いか。後藤」
桐崎を守る形で斜め前に立つ後藤は、はい、と腰の拳銃──シングルアクションを抜くと、それをマリエルの右手に向かって一発だけ放った。
「狂い咲く紅い薔薇(スプレッド・ローゼス)!」
察知したマリエルがほぼ同時に右手から爆発を生み出して左方向へと更に飛ぶ。
「尖の鷹」
あらかじめ<そう>飛ばせた桐崎が、右手を突き出して呟く。肥後守は見えないスピード、それこそ後藤の放った拳銃の弾丸と比べても引けを取らないものだった。
「んあっ!!」
何とか身体を捻ったが左手を射抜かれ、マリエルは小さい悲鳴を上げる。
射抜かれたまま何とか体勢を立て直そうとするマリエルを、しかし桐崎が見逃すはずもなく、指揮者のようなお決まりの指使いで肥後守を操ると、マリエルの身体は地球の引力よりも速いスピードで地面へと叩きつけられた。
位置エネルギーといい、運動エネルギーといい、それぞれがおよそ人間が生きてはいられない数値である。二つが合わさった数値を想像するだけで、生身の人間なら跡形も無くなってもいい衝撃の筈なのだが。
「なかなかどうして、不思議な身体を持っているものだな」
原形を留めているどころか、外傷がほとんど見受けられないマリエルの身体を見て桐崎が嘆息する。
「い……たあ……」
「まあいいか。左手を見る限り傷を負わない身体ではないみたいだしな」
「っぁあああっ!!」
マリエルの左手から思いっきり肥後守を引き抜いて手元に手繰り寄せると、手にした布巾で血を綺麗に拭い取った。
「暗の蛇」
布巾を投げ捨てると、今度は右手に向けて肥後守を発射させた。刃は斬るわけでも突くわけでもなく、高速で右腕の周りを回転し始めると、それに繋がれている<見えない何か>がマリエルの右腕を縛り上げていった。そして右腕の自由を奪うと、心臓の真上で刃は停止した。
「さて、雪はどこにいる?」
今だ呻くマリエルに容赦なく桐崎が問いかける。
「私が勝ったらって……言ったはずよ……ぁあああっ!!」
右腕を締め上げられたマリエルが悲鳴を上げた。ちぎれそうな勢いで腕に見えない何かが食い込んでいく。もしかしたら服を切断し、腕に直に切り込んでいるのかもしれない。しかし服が元々血の色のような赤な為、それは分からない。

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