23〜心理戦・匠:2   <量より質を>

先から見えないのをいい事に──窓際に移動した理由はそれが半分だったが──匠は意地の悪い笑顔のまま、口を開いた。
「質問2──最初の質問の答えは本当すか?」
笑みを浮かべてはいるが、内心ではまだ笑みを浮かべられる状態というには不十分だった。この質問は受け付けない、と言われる可能性も否定できないからである。何せこの方法なら嘘を見抜く確率が現時点でぐんと跳ね上がる。
3つ出来る質問を削ってまで費やした1問である。通るとは思っているが、通らなかったらキレようか、などと考える匠。その後になるべく先生には逆らいたくないけど、と付け加える。
「最初の質問の答え……ダウンロード開始……」
どうやら通ったらしい。表情は変えなかったが、内心ガッツポーズの一つでも決めたい気持ちだった。
「最初の質問の答えは本当か……違う……」
答えを聞いて首を縦に振る匠。
「最後の質問を……」
「うっす」
と一旦切り、そして改めて最後の質問を言葉にする。
「最初の質問の答えは嘘すか?」
今度は2つ目の質問とは逆の事を聞く。これが匠の攻略法だった。勿論、2つ目の質問が通ったのだからこの質問も通る筈である。
匠の予想通り、ダウンロードを開始する先。
3つ質問、と言われると内容を別にする3つの質問を考えがちである。よしんば気づいたとしても、欲が出てなかなかそれを実行出来得る者はいないだろう。世界の全ての秘密・謎を知る事が出来るのである。何も知りたくない者などいないのだから。
だとすれば1つを確実に知るのと、どれか嘘が混じってはいるが2つ知るのでは、後者を取りたくなる者が多いだろう。質より量、と言ったところだろうか。
だが量を追いかけてしまえば、偽の情報がどれか特定出来ず、結果振り回されて破滅してしまうのではないか。匠はそう考えるのだった。
「最初の質問の答えは嘘か……そう、嘘……」
答え終わったと同時に気を失いテーブルに顔から突っ伏す先。無抵抗に顔面を強打した為、すぐに意識は戻ったが。
「痛いよ〜」
頭を押さえながら、段々と広がる痛みに耐えられなくなった先がいよいよ大声を上げて泣き始めた。
「先生っ!?」
「先君!」
二つのドアがほぼ同時に開き、桐崎と凪が先に駆け寄った。
「どうしたの? でっかいたんこぶ! 匠にやられたの?」
「……うん」
「俺じゃねえよ! ってかあんたも何嘘ぶっこいてんだ!」
「沖田……お前先生とか以前に子供を殴るなんてな、外道もいいとこだぞ!」
「だから……!」
「さ、あっちで休みましょ、先君。匠の傍じゃ危険だもんね」
「うん」
言って凪の胸に顔を埋める先。それから匠をちらりと見やり、勝ち誇ったような笑みを作ってみせた。
「……ぉんのガァキィー!!」
凪に抱っこされ部屋を出て行く先に飛び掛ろうとする匠の鼻先に、桐崎の肥後守が向けられた。
「いい加減にしとけ、無礼にも程がある」
「偉い奴がみんな正しいみてーな寝言こくな、ゲボが」
匠もペーパーナイフを取り出す。
かくて、先のいたずらから生じた戦いは、この後1時間続いたのだった。

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