24〜支配者達の対話   (その3)

「あ、ユリエちゃん、いいよ私がやる」
「いいって。ユリエちゃんの方が紅茶美味しいし」
1時間後、百合園を見渡せる庭先にて。
凪は匠の御機嫌を取ろうと愛想を振り撒きながら走り回っていた。まさか匠が無罪だったなんて。
しかも先がたんこぶを作った原因は、匠よりも長く質問の時間を取った桐崎と凪のせいなのだから、言い訳の仕様がない。
桐崎も誤りこそはしなかったものの、昼食を提供していた。
「あーもう許してよー」
「やだね」
食後の紅茶(ユリエに煎れてもらった)を口にしながらふて腐る匠。と。
「皆、席についてくれ。後藤、ユリエ、お前らもだ」
先を送ってきた桐崎が戻り、場が緊張に包まれる。匠の御機嫌取りは中止せざるを得なくなったが、ともあれ全員が改めて揃った。
「じゃあ先生から賜った情報を交換しようか。まずは私から言おう」
先に質問をした部屋程大きくはないが、それでも10人座れるテーブルは広い。上座を桐崎として、時計回りにユリエ、凪。2人分空いて下座に匠。それから3人分空いて桐崎の隣に後藤。
「まず最初に皆に言っておかなければならない事がある。これは私の1つ目の質問でもあったのだが──このままの状態だと紬町は近いうちに<星の子の奇跡>に汚染される可能性が濃厚だそうだ。無論先生に未来を訊く事は出来ないから、現状を踏まえての分析として訊いただけなのだが」
「わ、若様それはまことですか!?」
「ああ、そして2つ目の質問としてその予防法を訊いたのだが、やはり欠落巫女の力が必要らしい。凪君、雪君は──無事かい?」
桐崎に姉の事を聞かれるのはとても気に食わなかったが、嘘でも姉が死んでいるとは言いたくなかった。
「無事です」
「そうか。では正しいのだろうな、その予防法は。だとすると3つ目が嘘、って事になるか」
「3つ目は何訊いたんだよ」
と、遠くから匠。
「父の死の原因。殺されたわけではないようだな」
「あのおっさんが誰かに殺されるようなタマかよ」
「それはそうなんだがな」
ペーパーナイフ2本でジャグリングを始めた匠を眺めつつ、桐崎は苦笑する。
「で、マリエルの居場所は分かったのか?」
「ん。まあな」
「どこだ?」
「さあね」
「沖田! 貴様ちゃんと答えろ!」
「やめろ、後藤」
憤慨する後藤に、しかし桐崎はまあいい、と言う。
「お前に聞く必要もなくなったようだしな」
「ま、そういうこった」
訳が分からず桐崎と匠を見比べる後藤。
凪もまったく理解できない様子で匠に視線を送る。
そんな中、ユリエが突然立ち上がった。
「あら、お客様ですね」
椅子を静かにしまい、上品に、しかし素早い動きで紅茶と洋菓子を一人分用意すると、敷地内を貫く道の方へと姿勢を正した。
「え、誰か来るの?」
凪の問いかけに匠も桐崎も答えない。
皆が視線をユリエと同じ方へと向けているので凪もそれに習うと、遠くから土をえぐるような音が聞こえてきた。それはやがて爆音へと拡大される。
何かのエンジン音だという事だけは、凪にも分かった。

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