22〜心理戦・匠:1   <彼女は……>

3という数は一番神聖視されるべき数字である。
物を支える時、1点ではバランスが悪い。2点だと1点よりも更にバランスが悪い。かといって4点は必ずしも必要とはされない。大は小を兼ねると言うが、余分な物を享受してしまうような愚行は避けるべきである。3点あれば物は支えられるのだから。
あるいは3人寄れば文殊の知恵と言われるように、毛利元就の言葉のように、とかく3という数字はバランスがいいのである。
実は匠も今回初めて先に質問をするのだが、3つ質問出来るというシステムを以前に知った時から、攻略法に気づいていた。何しろ3はバランスがいいのである。
「じゃ、始めよっかー」
「はい、先生」
凪と違ってさすがに先君などとは言えない。緊張の面持ちで先を見やる。
目が虚ろになり何かが憑依しているかのような、あるいは別人格のような、先が先じゃない光景に匠は口笛の一つも鳴らしたい所だったが、失礼な行動は一応わきまえておくべきだ、と前に傾いていた姿勢を真っ直ぐに直す。
「匠……はルールは知っているね……?」
「へい」
「なら……1つ目の質問を……もう10分も持たない……」
一番最後である匠には前の二人のように10分という時間は与えられないようである。凪が言っていた先が疲れているというのはどうやら本当の事らしかった。
「オーケイオーケイ、すぐに済みますから安心してくださいな、先生」
両手を前に突き出しながら立ち上がり、窓際を背に軽く寄りかかる。
じんべえの下で腕組みをし、何とはなしに遠くを眺めてから匠は聞いた。
「マリエルって人間すか?」
真横から見下ろす形で匠が問う。
静まり返る室内。
ややあって、先が口を開いた。
「マリエル・ウォールドが人間かどうか……ダウンロード開始……」
パソコンのようにダウンロード中に機械音めいた音でも鳴るのでは、と想像してしまった匠。そんな事が頭に思い浮かぶくらいの時間は流れている。一瞬で答えが返ってくるものだと予想していたのだが。
「先生?」
「……ああ」
今の状態の先だからか困った顔こそしなかったものの、匠の呼びかけに対して反応が遅れた事からして回答に戸惑っているようである。
「すまないね……彼女の中のファイアーウォールを突破するのに時間が掛かった……」
どういう事だ? と聞きたいところだったが、疑問文一つが質問一つに数えられては困る、
と匠は先の言葉を黙って待つ。
「マリエル・ウォールドは……人間……」
「そうすか」
答えに対して匠は表情を変化させる事はなかった。首を準備体操よろしく、一回転させ関節の小気味良い音──人によっては嫌悪感を示す者もいるだろう──を響かせる。
「次の……質問を……」
先が先を急かすと、匠は目を輝かせ八重歯が見える程に口の両端を持ち上げた。至極意地悪で、不遜で、勝気で、見方によっては狂気を感じさせられるような、そんな顔。生意気な子供と、他人を出し抜く事を知り得る大人の丁度真ん中に位置する年齢だからこそ、そして匠だからこそ持ち得る表情なのかもしれない。

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