19〜心理戦・凪:2   <傷は深いか>

「じゃあ君には今から3つ、質問させてあげる。その全てに対して僕は2つの正解と1つの嘘を答えるから気をつけてね。――言っとくけど、嘘をつくのは本心じゃないからね凪ん。体質とか本能とか自分でもよく分からないけど、僕自身逆らえない制約があるみたいなんだ。だから嫌いになっちゃ嫌だよー」
「うんうん分かってる。嫌いになんかならないから心配しないで」
先の不安げな眼差しも、その言葉によって吹き飛んだようだった。
「じゃ、いいよー」
と先は目を見開いた。瞳の焦点が何処にも合わさらない、そんな顔つき。この一瞬に別の人間に取って代わってしまったかのような雰囲気が、その小さな少年から発せられる。
「早く……して……時間はあまりないから……」
口調すら変わっている先。どうやらこの状態は長く持たないようだった。
先程桐崎が先の身体を心配していたのはこのせいなのだろう。
「あ、うん、えと──」
時間制限があると分かって、さらに凪は追い詰められた気分になった。慎重に質問をしていこうと思っていたので、言葉が続かない。
「3つの質問が行われる事が絶対条件……。出来ない場合……君の頭から質問した事が全て消去される……」
どうやら質問内容を忘れてしまうらしい。そんな事態は絶対に避けなければいけない。
「あ、ああ──お姉ちゃんを助ける方法を教えて!!」
追い詰められた勢いで凪は一番大事なことを躊躇する間もなく言ってしまった。自分自身で審判の時を早めてしまった事に気づき、頭の中が一瞬真っ白になる。もう戻れない道。
今のはナシ、と言えたらこの瞬間どんなに幸せだろうか。緊張は凪の手のひらの中に、こめかみに、首筋に、冷たい汗をもたらした。
「君の……お姉さんを助ける方法……ダウンロード開始──」
やはり目の前の凪を捉える事もなく、勿論凪の心を察する事もなく、先は少し首を上に上げてみせる。深呼吸をする時のようにゆっくりと。
「それを答える事は不可能……」
最悪の答えなのだろうか。それはつまり。
「死んだっていうの!?」
その答えだけは許容できない、と激昂する凪。
しかし先は目の前の憤慨する少女を無視して──実際視界に入ってはいない様子だが──続ける。
「未来は読めない……これもルールだから……」
「……って事は……」
「君のお姉さんを助けるという事は……魔女マリエルと当たる可能性が高い……戦いになった場合を想定すると……その結果までは知ることは出来ない……」
「生きているって事ね!!」
凪は立ち上がり先の手を掴んで、それから思いっきり抱きしめた。それさえ分かれば問題が回答不能だという事もどうでも良かった。
今までの恐怖や迷いや涙が報われたのだ。お姉ちゃんは生きている、その事実だけで凪はまだ頑張れる気力を持ちえたのだった。
「ありがとう、先君」
抱きしめたまま耳元で呟く。しかし、先はそれには何の反応も示す事はなかった。
「次の質問……」
逆に耳元で囁かれて驚く凪。抱きしめた状態から肩を掴んで自分の目の前に先を持ってくると、先は凪の声が届いていないかのように、次の質問……と繰り返していた。
これがルールというものなんだ、と凪は少し寂しげに納得した。
「よっし、じゃあ早く終わらせないと悪いもんね、じゃあ次の質問いくよ!」

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