15〜嘘憑き登場

少年。入ってきた男を見て凪が最初に抱いた感想である。身長は小柄な凪よりも更に低く、1メートル前後だろうか。見た目は10代前半の子供だが、桐崎が先生と言っているところから考えると年齢不詳である。自分より大きなワイシャツを引きずっている。ズボンのサイズは合ってるようだったが。
その先生とやらは、眼鏡を指で上げてからよじ登るように椅子に座った。
少し可愛いと凪は思った。
それにしてもまたもや予想を裏切るキャラが出たもんだ、と凪は何だか裏切られた気分になる。
「ごくろうさまです」
桐崎がうやうやしく一礼する。この桐崎の態度をもってして、目の前の少年が先生である事は確かである。しかし信じきれるものでもないので、凪は念のため確認した。
「ねえ匠、本当にこの人が先生なの?」
小声で聞くと、匠は素早くそれに反応した。
「ああそうだよ、流れからして当たり前じゃねーか」
「普通の子供にしか見えないよー……」
凪は呻き、テーブルに突っ伏したが、匠は凪の椅子の足を見えないように蹴り付けた。驚いて顔を上げる凪。
「何するのよ!」
「お前、姿勢正しとけ馬鹿っ!!」
何をこんなガキに、と凪は舌打ちの一つでもしたい気分だった。しかし隣の匠が怯えているように見えるのは気のせいだろうか。あの匠が怯える──そんな威圧感は目の前の先生とやらからはまったく感じないのだが。
だが匠が緊張しているというのは、言葉で説明されるより明白に事実を伝えているといえた。
「いやーお前ら待たせすぎですー」
と、目の前の先生とやらぼやく。
「あのー……」
恐る恐る手を上げる凪。
「ん、どうした凪君」
桐崎が応じると、凪は「やっぱりいいです」と手を下ろした。桐崎はそんな凪を見て訝ったが、それ以上は追求せずにそのまま凪を紹介した。頭を下げる凪。何故だか無性に腹が立った。
「あーよろしくーだねー。あれ、匠んも来てたの」
「え? あんたが来いって言ったんじゃねーか」
「いや……? 僕そんな事一言も言ってないよー。匠んー」
その瞬間、匠は胸元からペーパーナイフを取り出し後藤を睨みつけた。口元だけは笑いながら。後藤は冷や汗を掻きつつも自然な仕草を装って視線を外す。
「ダメだよ匠んーそんな物騒なものしまってくだっさいー。ここは話し合いの場でーす」
「うっせえ!!」
勢いで言ってしまった後で、匠は慌てて口を押さえた。油の切れた機械のように痙攣気味に笑みを浮かべ、首を小刻みに先生の方へと向けていく。
先生も笑っていた。とても穏やかに。
「匠ん……僕悲しいです。匠んがそんな調子だと、教えれる事も少なくなっちゃうんだよー。あーあ……君の性癖とかばらしていい?」
「うああああっ!! やめ、やめて下さいっ!」
机に頭をぶつけながら平謝りし、上目遣いで先生を見やる匠。
「オーケー分かったよう」
と一旦言葉を切る先生。それから息を深く吸い込むと、
「雪さん最高っ!! あーマジ付き合いてえ!! 巫女の衣装がたまんねえ!! ……だよね?匠ん」
笑顔でさらりと先生が言う。何がオーケー分かったんだろうか、と凪は思いつつも匠に冷ややかな視線を送りつける。
「最っ低ー……」
「違う、違うんだああぁぁっ!!」
凪と桐崎と後藤の3人から目を細められた匠が絶叫する。

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