5〜明け方の握手

「Seeing is believing、百聞は一見にしかず。真理の証明。この話が戯れ言じゃないところを見せてやる」
そう言って匠は再び店のドアを開ける。
「ちょっと来い。外には一歩も出るなよ」
凪は頷き、注意深く歩いて匠の背中に張り付いた。
「で?」
「もう少しだ。まあ待ってろって」
匠に言われるままにそのまま凪が待っていると、ふいに匠が口を開いた。
「前にーー1年くらい前か、まる1日夜って日があったの、覚えてるか?」
「ああ、あれね。うん覚えてる。史上類を見ない異常現象とかテレビで言ってたね。その日は学校が休みになって嬉しかったな。でもお父さんなんかビビッて有給使ってまで会社休んじゃってんの・・・ってもしかして!?」匠の肩を握る力を強めながら、凪は語気を荒めた。
「ああ。絶対基準の仕業だ。正確に言うと、俺があいつをぶっ倒そうと1日中追い掛け回してたからなんだけどな」
「寝させなかったから、朝が来なかったって事?」
「そういう事。じゃあその次の日は何時に夜が明けたか覚えてるか?」
背中越しに問いかける匠。
「うー覚えてない。なんか異常に早かったって事は覚えてるけど」
「それが分かってるだけで充分だ。あの晩ーーまあずっと晩だった訳だけど、勿論決着はつけられなくて、絶対基準の奴に逃げられちまった。その時奴は闇に溶けるように消えた。追い回してる最中はそんな移動の仕方なんてしなかったのに。で、いつもと違って夜明けが早かった。その後も何度かあいつに接触してみたけど、夜が明けるのが早い時は決まってそうだった」
「それで?」
「察しが悪いなあ、ちょっとは考えろよ。<闇に溶けて消えた>ら、<夜が明けるのが早かった>んだぜ?」
そこで匠は振り向く。もう分かっただろ、と言わんばかりの顔である。
「あー!さっきあいつ・・・!って事はっ!!」
「そう、もうじき夜が明ける。まだ3時半過ぎだけどな」
二人が頷きあってお互い視線を空へと戻した瞬間、まだ真っ暗闇であるべきはずの空に異変が起きた。空が白み始めてきたのである。つまりは夜が明けた、という事である。
夜が明ける事は異変でも何でもないが、本来夜が明けるべき時間ではないのだから、これは異変と言えよう。
「ほんとに・・・夜が明けちゃった・・・」
「ああ。どうだ?理解して納得してちょっぴり感動したか?」
匠が意地悪そうに凪に問いかける。それから凪の手を取って外に出る。
絶対基準隣人は現れない。
「朝が来ただけでこんなに感動したの、初めてだよ・・・!」
凪は目の端を少し濡らしながら笑顔を見せ、それから匠の手を取って上下に振った。
「この町がどういう所かーー狂っているかのようなロジックで出来ているこの町の真実を、今お前は知ったんだ」
匠はそう言って笑顔で右手を差し出した。
「まあとりあえず合格だな、お前を手伝ってやる」

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