4〜真理の裏の真理

「匠・・・助けてくれたの?」
少し声を弾ませる凪。匠は不機嫌な顔で振り向くと、それには答えずに凪の手を引っ張って再び店内に戻った。
「まあ座れ」
半ば強引に凪を一つだけある椅子に座らせる匠。凪も黙って従う。
「くそーむかつく。とにかく、落ち着け」
それはお前の方だ、と凪は思ったが、口にはしない。深呼吸をする匠を見上げてしばし待つ。
「で、分かったか? 俺が止めた意味」
首肯する凪。
「自分の意志で動くのはいい事だ。その気持ちを止める気はあまりないんだけどな、夜はアレだからやめた方がいい。絶対基準隣人だけは関わるな」
入り口を親指で示して静かに息を吐く匠。
「やばいってのは・・・うん、分かった。でも、何で人類全ての敵なの?」
「絶対基準がその気になれば延々と太陽を津へ地平線の向こうに留めて置く事が出来るからだ」
「意味が分からない、それじゃああいつの心一つで夜が終わらないっていうの?」
「ああ。さっき絶対基準自身が言ってたように、あいつが眠りに就かないと夜が終わらないんだ。もし、夜が永遠に終わらなかったら、いや、永遠じゃなくても三日に一度しか朝が来なかったらどうなると思う?」
凪は答えない。しかし、その顔は恐怖と驚きに支配されており、それは即ち匠の考える答えに辿り着いた事の証明であった。
そう、と匠が呟いた。数秒の沈黙が暗い店内に重くのしかかる。
やがてこの場の空気に耐えられなくなったのか、凪が腰を浮かしかけた時、やっと匠が口を開いた。
「いつかは倒さないとな、とは思ってるんだけどな。まービジュアル的にも関わりたくない相手ではあるんだけど」
「この町なら・・・有り得そうな話だけどでも・・・」
「ま、気持ちは分かる。地球が自転してるから朝と夜があるし、太陽は東へ西へだ。そういった科学で証明された事も事実で真理なんだけどな、でも嘘じゃない。ただ、絶対基準の生体機能とその真理が一致してるだけだ。絶対基準は平均12時間眠る。そして夏は多く睡眠をとり、冬は活発に活動する。だから、日が落ちるのが早くなったりするんだ」
昨日1日で充分この世のものとは思えない光景を見せつけられた凪に、匠の言っている事を否定するだけの思考はなかった。いや否定肯定云々どころかすんなりと受け入れてしまっていた。ただ、納得はしても、理解できない点はあった。
「じゃあ時差はどうなるの?今は3時半か。アメリカだったら昼下がりの筈よ?」
「絶対基準の存在するこの町を文字通り<絶対基準>として、そこから離れる程あいつの支配力が弱くなっていくんだ。だから、時差が起こる」
グリニッジ標準時の存在感を薄れさせるような発言をする匠だったが、ここまでくると説得力も信憑性も凪の中では揺るぎのないモノになっていた。
「ちなみに、絶対基準には兄がいるらしい。あいつ自身が言ってた。南半球にいるってさ。どっかで通じあってんのか、どっちかが寝るともう片方が目を覚ますんだと。どっちかがずっと起きてたらもう片方はずっと寝てるってワケだ。
は、たいした戯れ言だよなー。でも、真実で真理だ」
そう言って匠はちらっと時計を確認した。
「そろそろだな」
「何が・・・?」

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