その9

 結局全てを失った哀れな負け犬の匠。もう彼は何をする気も起きずに、一人町を歩き続けました。途中川べりで座り込むと、石を投げては一人世の中の不条理さを嘆き続けました。
 そんな哀れな匠の肩を、誰かが優しく叩きました。
「あげる」
 振り向くと、そこには凪狼が立っていました。彼女は袋いっぱいのたいやきの一つを匠にあげると、横に座りました。
「凪……」
「狼です」
 嫌々訂正しつつも、凪は感動する匠に優しく微笑みました。その笑顔のなんと可愛い事でしょう。あまりの可愛さに匠の心の中で、ズギュウーーーン、と効果音が鳴り響きました。
「凪……お前のものは俺のもの、俺のものは俺のものだ。分かったか?」
「分かるか……」
 どこぞのガキ大将のような台詞で手をがしっと掴む匠に、凪狼は半目でぼやきました。
「……まあでも今回は匠、いや長男豚の味方になってあげるわ。お互い役所思いっきり間違えてるし」
 凪狼も手を握り返して、強く呟きました。
「そうだよな、なんか……違うよな」
「ええ。間違いまくりよ」
 二人は陽が落ちかけた川べりで、熱く握手を交わしました。

 その時のたいやきの味は、二人にとってかけがえのないものになったのでした。

<了>

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