1〜―――――――

真っ白でも真っ黒でもない、内側に存在するだけの世界。
五感を失った凪が意識的に認識できるのは、ただそこにいる、という事。自分の心の他には何も存在していなかった。
何色かも分からない、無色かどうかすら分からない。
立っているのか座っているのか、寝ているのか起きているのか。あるいは浮いているのか沈んでいるのか。そのどれかなのかもしれないし、あるいはどれでもないのかもしれない。
何もない、という事は最も恐ろしい事だ。けれど、凪は不思議とまったく恐怖は感じていなかった。むしろ<前の世界>よりも落ち着く自分を感じていた。
それは何か強い力に引き寄せられていると、そう思わせる意識がこの世界に目覚めてからずっと存在しているからだった。それが何処から発せられているかなど勿論分からない。しかし確実に自分はそれに近づいている。そんな確信があった。
今となっては──時間など分からないが──凪はそれを誰よりも認識していた。

つまりは、奇跡。

確か<星の子の奇跡>だったっけ──と、桐崎の言葉を思い出す。次いで顔を思い出し、そこから雪の顔へと思考を移す。
姉は元気になったのか、声が聞けないのがもどかしかったが、でも後悔はしていない。きっと失った時間を取り戻していることだろう。
再び流れ込んでくる奇跡の存在に意識を向ける。少しずつ近づいているのが分かる。
この事だけが<前の世界>とこの世界を繋いでいるのだ。この存在が無くなってしまったら自分はもう──
(……バカ。なんてこと考えてるんだ、私は)
奇跡を止めようとこの欠落巫女になった訳ではない。だが、結局姉の幸せを願うのであれば止めるしかないのだ。
ここまで来て奇跡を止めないのは無駄な事、犬死になのだ。
凪は首を振るような意識で揺らいだ想いを振り払った。
奇跡にどんどん迫っていく。
もう少しすれば誰の目にも明らかになることだろう。早く止めなければ。それが出来るのは私だけなんだから。


幸せを願って。

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