1〜目覚めの寝言

随分とベッドが軋むのは、やっぱりこれもがらくたなのだろうか。確かに寝返りを打つ度に揺れる気はする、と凪は頭の片隅で、そう片隅で、そう思った。
匠の部屋に時計はなかった。あったとしても電気を消している為、どうせ見えはしなかっただろうが。
凪は自分の時計を探そうかとも思ったが、それも頭の片隅の思考だった。結局寝返りを再度打つだけで諦める。
果たして自分は目が覚めた時間を知りたいのか、それとも目が覚めてからの時間を知りたいのか。
それも結局、頭の片隅に浮かんだ思考である。
浮かんでは消え、浮かんでは消える、どうでもいい事。
頭の中を本当に支配して止まないのは。

おねえちゃん。

姉の事を考える、その行為を妨害するようにどうでもいい事が浮かんでくるのは。
それは、本当は自分が姉の事を考えるのを拒絶したいからだろうか。
だとするならば、どうでもいい事はどうでもいい事ではなくなってくる。
つまりは妨害などではなく、救済。あるいは救済でもなく、逃避。あるいは逃避ですらなく、零。
そういえば、考える事を辞めた時点で人間は人間でなくなる、とかいう言葉を聞いた事がある、と凪は思った。
だとしたら私はもう人間じゃないのかもしれない。
そんな事を<頭の片隅>で考えつつ、凪は再び姉の事を頭に思い浮かべた。いや、勝手に浮かび上がってきたと言った方が正しい表現である。
姉がいなくなった事は事実である。そう、欠落巫女である姉を殺す、とマリエルが言ったのも事実なら、そのマリエルに姉がさらわれたのもまた事実である。
要するに凪の姉が生きている確率は、どう希望的観測で見積もっても恐ろしい程低い、という事になる。
凪は掛けていた毛布を手繰り寄せ、完全に毛布に包まれる形になった。自分の息が生温いと感じる程の狭い世界を作り上げ、両膝を抱える。
身体を密着させると、言い知れず温かさが全身に広がった。誇りまみれの服は脱いで正解だったようだ。
知らない男の家で下着1枚なんてね。私はフジコキャラじゃないんだけどなあ・・・。
凪はまたどうでもいい事を頭の片隅に浮かべると、しばらく目を閉じて温かさに浸った。
それは10分だったのか、20分だったのか、はたまた1時間だったか。
ふと無駄な時間だ、と凪は思った。同時に、姉が生きているとしたら、こうしている間にも死ぬ確率が高まっていってるのだ、とも思った。
(・・・だからってどうしろと?)
そう呟きながらも、しかし姉が死ぬ場面を目の当たりにしたわけではないのは事実だった。
だからこそ、凪は絶望ではなく不安を抱いてるのであったが、どちらにしろ凪に重くのしかかっている事だけは確かだった。
姉の安否がはっきり分からないから、次にどう動いていいか分からないのだ。
助けるにしろ、悔やむにしろ。
泣くにしろ、帰るにしろ。
と、凪は毛布を跳ね除け、ベッドの上に上体を起こした。
(結局、動かなきゃ始まらないのよね)
仮定。もしも。イフ。もしもお姉ちゃんが生きているなら。
凪はそこで頭を横に強く振った。
これは仮定ではなく、想定だ。断定ではないけど、でもそれで充分じゃないか。
凪はベッドから降りると、手探りで自分の衣服を探し当て、急いで着始めた。今何時だろう。それは今度は意味のある思考だった。

<<前目次次>>
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送